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 すももの木を植えたわけ









なんといっても,物心の着くのが遅い子だったもので、
おそらく同じ年代の子であれば感じていたであろう、
季節の移ろいや、人の表情の変化に鈍感な子だった。 

中学校に進学して、何も考えず地元でない中学に汽車で通い始めて、
最初の夏に,彼女の家に行った。 

招待されたのか自分から行きたいと言ったのかはすでに思い出せないが、
彼女の名はシマダさんといった。 

小柄で短髪、赤いふちの眼鏡の彼女の家は、
中学校から少し東へバスに乗った街のはずれだったような気がする。 
小さな平屋におじさんと住んでいるという彼女の言葉に,
一瞬、「なぜおじさん?」と思ったけれど
瞬時に忘れてしまえる便利なアタマの持ち主だったから。 


玄関をはいって多分2つ目で、庭に面した部屋に低いテーブルがあり、
その真ん中にどっさりすももが積んであったのだ。 
とてもバランスよく盛られたすももは、かごに入っていたのか,
もしかすると南仏の黄金色の皿に盛ってあったのかもしれないが、
田舎者の13歳には十分な、初めて出会う うつくしいものだった。 

ああ、そうだ。
彼女はとても絵が上手だったんだ。 
ノートの端にかいてある手塚治虫のキャラクターに心奪われたのだった。 

彼女の部屋にはその「悟空の大冒険」の絵が貼ってあり 
もちろん彼女の描いたものだったけれど、
光を白く塗るなど、絵の具で立体感を出せることすら知らなかった私は、
今でも その絵の悟空の着ていた
むらさきの衣装の細部まで思い出すことができる。  

盛られていたすももは、夏なのにひんやりとして、
自分がそれまで知らなかった場所にいることに気づくのに十分の甘さだった。 


これが、庭にスモモを植えたいと思ったわけだけれど、
この前、尾崎悌之助展に老親を連れて行った時、
学芸員さんで彼女にそっくりな人がいたのだけれど、
「シマダさんですか」と尋ねられなかった,へたれな私(_ _)
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by mican-lingo | 2010-06-29 21:12 | うつむき日誌 | Comments(6)
Commented by yocchi0220 at 2010-06-29 22:26
いい思い出~^^
ひんやりとしたすもものある1シーンが浮かんでくるみたい。

シマダさんなのかなぁ…また、行った時の楽しみが増えたということで。^^
Commented by takibiyarou at 2010-06-30 10:44
遠い記憶の中から、突然と甦る、香り、味覚
そしてヒンヤリとした感触、触感
ストーリは支離滅裂なのですが、その感覚だけは
ついさっきの経験かと思われるほど新鮮です

スモモ、たくさん生ったようですね
Commented by daikatoti at 2010-06-30 21:59
いやぁ、小説みたいでしたぁ。。感激。
Commented by mican-lingo at 2010-07-01 21:27
♪ yocchiさん

そうなの。
彼女はシマダさんかどうか・・・
心なしかそのひとも、こっちをじぃ・・っと
な感じだったし(^ ^;)
Commented by mican-lingo at 2010-07-01 21:29
♪  takibiyarouさん

ええ、すももだけはたくさんなるんです。
一応さくらんぼもあるんです。

高校の国語の先生にも
「おまえの話は面白いけど,時間軸がなぁ・・・」
と言われてましてん。
Commented by mican-lingo at 2010-07-01 21:30
♪ totiさん

うふふ、ありがとうございます。
シマダさんは、
私の中で、いつも少し困った顔をしている
永遠の少女なのであります。
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